介護施設におけるネグレクトという名の虐待②【隠された虐待をどうするか?】

介護業界では介護するべき職員が、
ケアプランに基づいた利用者さんへのするべきことを怠ること、
行わない事、放置することがネグレクトに当たります。

具体的には、
ナースコールを鳴らす利用者さんのナースコールを鳴らし続けるままにしたり、
ナースコールをつけっぱなしにして放置すること、
利用者さんの体調が悪化するにも関わらずに食事提供をしない、
トイレに連れて行って欲しいと言われる方の要望を無視して退室する、
利用者さんの家族による虐待の放置も該当します。

ネグレクトには2種類あり、
積極的ネグレクトと消極的ネグレクトがあります。

掘り下げていきましょう。

①消極的ネグレクト 一時的タイプ
②消極的ネグレクト 慢性的タイプ
③積極的ネグレクト 後先考えずタイプ
④積極的ネグレクト 自己都合タイプ
⑤積極的ネグレクト 職場環境タイプ

①消極的ネグレクト 一時的タイプ

職員は日々、
毎時間やらなくてはいけないことに追われて仕事をしているため、
利用者さんの要望を全て汲み取ることは正直難しいです。

そんな中、
利用者さんの入浴介助のため各職員が浴室に入った状態で、
事務所はもちろん、
それ以外でも誰もナースコールの対応ができない場合に、
ナースコールが鳴り続けたとして、
それはネグレクトに当たるのでしょうか?

まず職員は浴室に入っているためナースコールに気づかない事も多いですし、
鳴っていても自分が対応できないことの方が多いでしょうから、
電話は他の職員に任せることが慣例となっていると思います。

なぜなら目の前には利用者さんが衣類を脱いだ状態で浴室に座っているので、ナースコールよりも浴室の利用者さんに事故がないかを気にしなくてはいけません。

入浴介助時に電話対応をしてしまったために目の前にいる利用者さんが転倒や突然の体調不良で事故が起きてしまったら大変ですから、
入浴中でも電話対応するよう指導している現場は限りなく少ないと思います。

それくらい入浴中の事故は多く、
事故を防ぐためには職員がまず目の前の利用者さんに集中しなくてはいけないためです。

施設の中にいる利用者さんは、
何らかの理由でナースコールを押してきます。

トイレか、日常的な要望か、話をしたいのか、
間違えて押してしまったのか、転んでしまったのか、
利用者さんによって事情は変わるので緊急性は異なりますが、
日中帯の午後など、
一時的にナースコール対応ができない場合はあります。

10分、20分経って利用者さんも入浴を済ませて安全な状況になったならば、
職員もナースコールの対応をできるようになります。

このように仕方のない状況を消極的ネグレクトと言い、
施設としては人手を確保するか、
職員の仕事の流れを変えて一人はナースコールの対応ができるようにすれば改善の余地はあります。

②消極的ネグレクト 慢性的タイプ

更に厳しい状況を考えていきましょう。

鹿児島県鹿屋市の住宅型有料老人ホームで職員全員が退職し、
夜間帯は施設長1人で対応しなくてはいけない日が多かった、
という例も同様です。

利用者さんへのケアプランはあっても、
人手不足によりケアがまったくできない場合も、
くくりとしては消極的ネグレクトになります。

介護職側に意図して介護放棄をするつもりがなくても、
介護職側の人手が足りないとか、
足りていてもその介助をできるだけの体力、力がないなど、
サービスを提供しつづけるだけの体制が整っていないために介護ができない場合が消極的ネグレクトにあたります。

この場合ですと排泄介助も間に合わない、
食事介助も終わらない、
入浴介助もできない、
ベッドに臥床させつづけて体位交換もできなかったため、
褥瘡の原因である発赤が皮膚にできるといった問題が発生します。

ここまでの状況が起きてから対応するというのは遅すぎます。

施設側は夜勤手当が一万円から七千円になったこと、
二つに分かれていたグループが対立したこと、
裏切りがあったことが全員退職された理由だったと言っているようですが、
なぜ現場の人間関係を調整できなかったのか、
なぜ夜勤手当を減額したのかについては一切触れられていません。

その上、
この施設の利用者さんで褥瘡や身体拘束があったこと、
居室環境の整備がおろそかになっていたこと、
他の施設に転居される方の情報を他施設に連携する資料も杜撰で、
最終日も見送りもしなかったというのですから、
経営陣を全て入れ替えることから始めないといけませんね。

職員の待遇を悪くしたのも経営が悪化したからでしょうか?

人手が足りないから褥瘡が起こるのも仕方ないというよりは、
起こるべくして起こったといわざるをえないです。

施設長及び担当医師のメディアへの対応などから、
施設の経営陣が介護職をどのように扱っていたのかが伺えます。

現場への配慮が見られない経営陣が、
「グループが対立して」「裏切り」にあったと自分たちに責任はないかのように発言して、
原因の追究をしなかったがゆえに様々な問題点を解決できずに、
夜勤手当を一気に引き下げて職員の待遇を悪くさせたのが決定的で、
職員が大量に辞めたのでしょう。

夜間帯に高齢の施設長一人しないないため、
介助が確実に提供できなかった。

この要素だけを抜き出すと消極的ネグレクトに該当するでしょうが、
それ以外にも虐待を起こしていることから、
積極的ネグレクトもあったのではと勘ぐってしまいます。

③積極的ネグレクト 後先考えずタイプ

では積極的ネグレクトとは何でしょう。
それは介護する環境が十分整っているのに、
何らの理由で介護をおざなりにしてしまう場合を指します。

人員は揃っていて、
他の職員は問題なく行っているのに、
その職員だけ目配りをしないで済ませたとか、
職員にはナースコールに対応するだけの時間的な余裕も十分あったにも関わらず、
ナースコールを無視したなどが該当します。

この積極的ネグレクトが起こしてしまう職員の心理状況を分析しましょう。

必要な介助をしないことで利用者さんだけでなく、
他職員に迷惑がかかる場合があります。

排泄介助を意図して行わなかったことで次の職員が大変な状況になってしまい、
その職員からクレームが上がることで、
前回の職員が介助を行わなかったことが発覚するパターンです。

新人職員でなければ業務の流れは大体頭に入っていますし、
入っていなくてもメモをしているでしょうから忘れるという事はあまりないと思います。

しかしある特定の利用者さんへの介助だけ手を抜いているとか、
それにより次の職員が尿失禁でシーツ交換まで発生してしまったとなれば、
前回排泄介助をしなかった職員に非難が集まるのは当然ですので、
職員は介護しないという選択肢を取る前に躊躇するはずです。

本当にしないで大丈夫かと。
ここでしないという選択を行ったことで、
積極的ネグレクトが起こります。

④積極的ネグレクト 自己都合タイプ

もう一つのケースが考えられます。

必要な介助があるにも関わらず、職員はそれをしないと判断した。

なぜ介助しないという選択肢を選べたかというと、
介助しなかったとしても他の職員から非難を浴びないと予測を立てたケースです。

介助しなくても他職員から非難されないから、
本人は積極的にネグレクトを行うというわけです。

居室で利用者さんと一対一となっている場合で、
利用者さんから薬を塗ってほしいと頼まれたとします。

しかしその利用者さんに記憶障害があった場合はどうなるでしょう?

一回、薬を塗ってもまた忘れ、
二回、薬を塗ってもまた忘れ、
塗ることに意味を感じなくなり、
何度も要求されることが煩わしくなり、
利用者さんに頼まれても無視するようになる。

そんなケースがありえるのではないでしょうか?

そして「薬を頼まれたけれども塗らなかった」、
更には頼まれたけど返事をしないで無視して居室を出たとして、
そんな事をしたという証拠はどこにあるのでしょう?

もちろん利用者さんは以前の記憶を覚えていませんから、
あの人が何もしてくれなかったとは言えないわけです。

証拠が残らない場合に、
積極的ネグレクトが発生しやすくなると言えるでしょう。

これは泥棒が侵入しやすい家は、
周囲に人がまったくいない閑散としたエリアだというのと同様です。

職員が余裕があるにもかかわらずに積極的ネグレクトを起こすのはこういったパターンが考えられます。

この場合、
どうすれば職員の対応を変えることができるでしょうか。

本人が意図して、
積極的ネグレクトを行っているわけですから、
自分からネグレクトをしていると申告することはないでしょう。

自分にデメリットがあることを告白できる職員は、
他人からの批判も当然浴びますし、
その中で自分のケアがいかに間違っているか気づくきっかけとなりうるからです。

自分が間違っていると思えないからこそ続いていく積極的ネグレクトを防ぐためにはどうすればいいでしょう。

その職員の良心に期待はできないのでしょうか?

身体的虐待や身体拘束であれば証拠が残ります。

しかし心理的虐待やネグレクトでは証拠が残らないケースが考えられますから、
介護施設の研修で虐待が扱われる際には、
職員が行っているかもしれない不適切ケアについて「もう一度見直してほしい」と一人一人、
問いかけるように話しかけて職員に仕事を行う上での責任の自覚を促す必要があるでしょう。

本当に自分は虐待をしていないか、
不適切なケアをしていないか、
利用者さんの思いを叶えようとしているか、
満足度を上げるようにできているか、
利用者さんに説明と同意を取っているか、
自分が受けたい介護をしているか、
自分の両親に受けさせたい介護をできているか、
もう一度見直してください。

⑤積極的ネグレクト 職場環境タイプ

もう一つ、
積極的ネグレクトが起こる場合があります。

それは職場環境が引き金となる場合です。

職場環境が悪くなり仕事の負荷が高まり、
人間関係が悪化しているような現場では
「面倒なナースコールは対応しないでおこう」
といった心理が働く場合もありえます。

この場合は、
本人に対してそれでいいのかという問いかけはもちろん重要ですが、
それだけではなく職場環境を改善することも大切です。

職員一人一人が、
自分にこれだけの時間でこれだけのことをしなくてはいけない、
というストレスが掛かっている中、
どこの援助が難しくなってしまうのか、
どこの援助が十分にできなくなってしまいがちかをオープンに話し合える環境を作ることはとても大切です。

人のミスを叱責したり、
明らかな嫌味を言ったり、
暴言を吐いたり、
いじめをしたり。

このようなストレスフルな現場にならないようにどうしていけばいいか。

それは現場により様々な意見が出るでしょうから話し合いましょう。

お互い介護職の質を高めるためにどうすればいいかと真剣に話し合う中で、
自分がどれだけ知らなかったのか、
気づいていなかったのか、
考えていなかったのか分かってくることは多いはずです。

失敗したから非難するのではなく、
そういった隠してしまう職員の心理状況を生まないために
利用者さんの生活の質を高めていくと共に、
職員の成長を促す環境をどう整えていくか話し合いましょう。

頑張りましょう(^^♪