
前回の記事で、
男性の利用者さんに対して弄便対策として夜間帯にバスタオルを巻かせていただいているという話を題材に、
本当にその対応しかないのかと分析しました。
今回はナースコールを頻繁に鳴らされるために業務がままならなくなったことから、
一時的にナースコールを止めさせていただく対応を取った事例を分析していきましょう。
①ナースコールを止めさせていただく
②要望に真剣に向き合っているか?
①ナースコールを止めさせていただく
数年前に私が入職した当初から、
その方からのナースコールは頻繁にありました。
用件をナースコール越しに仰られることはまずなくて、
訪室して用件をお伺いしても用件を言われなかったり、
またはナースコールを押したことさえ記憶にはなくて、
用件を言われない事も多く言われました。
その方からのナースコールはその方が起きていればされますので、
日中帯の方が頻繁でしたが夜間帯も何回もされることがありました。
そのためカンファレンスで何度も対策は検討されましたし、
本人さんの要望をくみ取る対応は行われていました。
しかし一向にナースコールが減ることはなく、
その方からのナースコールがあまりにも多すぎるため、
他の方からのナースコールで緊急性があった場合にも対応ができなくなるのでは、
という話が持ち上がりました。
利用者さんとしては用件がある(かもしれない)からナースコールを押すのであり、
それに職員が対応するのは当然でしょう。
しかしその方からのナースコールで他の方がナースコールでされる
「トイレに行きたい」
「転んでしまった」
などの用件への対応が遅れていいのでしょうか?
身体が痒いから掻いてほしい、何か(食べ物を)ちょうだい、薬を塗ってほしい、用件なしなどのナースコールへの対応は、
ご家族さんの了解のもと、
夜間帯はナースコールを繋げっぱなしにすることでナースコールを使えなくしました。
その代わりとして、
夜間帯は一時間に一回、訪室して様子を見る対応を行いました。
このナースコールを止めるという対応は、
ネグレクト(介護の放棄)にあたるのでしょうか?
身体拘束の3つの条件、
切迫性、非代替性、一時性は揃っているでしょうか。
【切迫性】
何十分にも渡ってナースコールを押し続けることもあったことから、
その間他の利用者さんの身体に何かがあって、
ナースコールを使っても対応が遅れてしまうリスクがその間ありました。
しかしそれが何時間と続いたわけではなかったため、
他のナースコールへの対応が遅れるにしても数分程度だったと言えます。
PHSを使っていて、
その方から以外のナースコールもあった場合はPHSに二つの点滅があったわけで、
別の方のナースコールへの対応が数分遅れるのが許容されるのであれば、
対応は可能でした。
その意味でも切迫性があったとは言いづらいです。
【非代替性】
ナースコールを止めないで、
他に方法はなかったかを考えてみましょう。
確かにナースコールが頻回な方でしたし、
職員が忙しい時間帯であればそうそう目配りできない事もあるでしょう。
しかし夜間帯に職員が一時間に一回目配りに行くのではなく、
30分に一回目配りにいくことでナースコールの使用が減るかもしれません。
そもそも利用者さんの要望を十分に汲み取っていましたか?
オムツを掻いてしまう理由は陰部にかゆみがあるからで、
薬の塗布が適正だったのか、
塗布の頻度が十分だったのかも考えたでしょうか?
また便が常に出続ける状態でしたので、
以前近くの肛門科に行って診療してもらいましたが、
その肛門科で成果が出なかったのは仕方ないとして、
他の肛門科で見てもらうことはできなかったのでしょうか?
便通が良くなることで、本人の陰部の清潔も保たれますし、
かゆみの軽減にも繋がるのではないでしょうか。
そういった検討をしましたでしょうか?
根本原因の追究、
対策として行っていた薬の塗布が十分に行われていたのかの検証、
本人のナースコールを減らすための訪室回数の増加を再度見直すべきだったのではないでしょうか?
それをしないで、
ナースコールを夜間帯に止めるという結論を出したのは早かったのではないでしょうか?
【一時性】
ナースコールを止めていた時間帯は夜間帯ですので、
就寝の夜7時から朝6時までが該当します。
これが一時性だったと言えるでしょうか?
利用者さんのナースコールが夜間帯に頻回になることは確かにありました。
しかしそれは何時間も続いたでしょうか?
他の方のナースコールに対応できなくなるくらいだったでしょうか?
止めるにしても夜間帯ずっとではなく、
職員が一人しかいなくて排泄介助がたくさん入っている夜9時半から11時までの間など、
時間を限定的にできたのではないでしょうか?
一時性を考慮した対応とはとても言えないでしょう。
以上、
この利用者さんに対しても、
切迫性、非代替性、一時性の条件が備わっているとは言いづらいことが分かりました。
他にできる手段、方法が残されていたにも関わらずに、
ナースコールを止める対応を行うべきではなかったと言えます。
ナースコールを止めたことで、
職員の精神的、肉体的な負担は確実に減りました。
ですがそのことで利用者さんの尊厳、
本当のニーズが蔑ろにされていないかをもう一度考えていかなくてはいけません。
確かにその利用者さんはナースコールに限らず大変な方でした。
弄便や大声など、
食堂でも他の利用者さんから奇異の目で見られることも少なくありませんでした。
しかしその方の要望に真剣に向き合ったのか、
対策は十分だったのかと考えると、
まだまだ甘かったと気づかされました。
②要望に真剣に向き合っているか?
半年前くらいからでしょうか、
その方がお食事を召し上がらなくなったことで急速に体力が落ちて、
今では点滴を毎日のように行うようになりました。
点滴のない日だけ車椅子にて食堂にお連れして、
他の利用者さんと一緒に召し上れるよう食事の準備を行っていますが、
ご自分でミキサー食を召し上がることはまずなくて、
声かけをしても手は動きませんし、
エンシュアという高カロリー飲料を何度も飲んでくださいといって少しだけ飲んでいただくという状態で、
水分も栄養分も十分に食堂でも居室でも取れないためにまた翌日は点滴となるような日々になりました。
その方は「パン」と食堂で言われることがあります。
昔食堂でパンがお好きで食べていたように、
食べたいと言われたのです。
しかし利用者さんの嚥下能力が十分にあるわけではないので、
「パンは食べられないですよ」
とお伝えするしかありません。
それが、
昨日の研修でパンのようなソフト食があるというのです。
見た目もパンのようで、
口に入れるとすっと溶ける。
そんなパンのような見た目、
匂いのソフト食があると研修で講師が教えてくださいました。
この利用者さんに、
このソフト食ならばもしかしたら食べていただけるかもしれません。
嚥下の問題や、
食べていただくための準備(厨房を通さずに施設が購入して提供すると食品衛生上の問題が出るため、どのように提供するかという事務的な制約が実はありました)は考えなくてはいけませんが、
食べられるのであれば食べていただいた方が利用者さんの満足度が上がったかもしれません。
どうしてできなかったのでしょう。
ミキサー食を提供しているような利用者さんに提供できるようなものはないと決めてかかっていたのでしょうか?
最新の介護食に関しての勉強が足りなかったのでしょうか?
両方でしょう。
このように、
その方への対応が適切なのかという視点はとても重要でありながらも、
見過ごされてしまう事がまだまだあるのだということを改めて認識しました。
日々状態の変わる利用者さんへの対応が適切なのか、
それは利用者さんの尊厳に配慮できているか、
自分がもしその対応だったらそれで満足か、
自分の両親がそのように対応されても問題ないかなど、
振り返って考えていきましょう。
虐待を防ぐためには説明と同意が不可欠だと研修で習いました。
本当に自分は説明と同意を取って介助をしているでしょうか?
見直すべきことは沢山ありそうです。
頑張りましょう( `・ω・´)ノ