介護施設における身体拘束という名の虐待【尊厳VS弄便対策】

先日会社で行われた研修で身体拘束について話題が上りました。

改めて思うところがあったので、
まずは身体拘束は何ぞやという話をした後に、
今まで働いていた現場の事例を参考にしながら考えてみたいと思います。

①身体拘束とは
②弄便を防ぐための身体拘束
③オムツでなくてはいけない理由

①身体拘束とは

虐待の種類には、身体的虐待、心理的虐待、ネグレクト、性的虐待、経済的虐待とありますが、
身体的虐待に含まれるのが身体拘束です。

かつては安全確保を理由として身体拘束が行われることがありましたが、
介護保険制度が施行されて以降、
身体拘束は原則的に禁止となりました。

「原則的に禁止」とはどういうことかというと、
利用者さんの生命または身体を守るためにやむをえない場合にのみ、
身体拘束は許可されています。

やむをえない場合とは、
ケアの工夫だけでは対応できないような突発的な事態が一時的に起こった場合
──すなわち切迫性、非代替性、一時性がそろっている場合をいいます。

切迫性:利用者本人または他の利用者等の生命または身体が危険にさらされる可能性が著しく高いこと
非代替性:身体拘束その他の行動制限を行う以外に代替する介護方法がないこと
一時性:身体拘束その他の行動制限が一時的なものであること(最も短い時間となること)

例えば、
点滴のチューブを抜いてしまう方がいた場合、
利用者さんの意思などを尊重して、
チューブを抜いてしまうのは利用者さんの自由という考えもあります。

ところが病院において点滴をしなくては、
利用者さんの生命にかかわる場合はどうでしょう? 

チューブを抜いてしまうのは利用者さんの自由と言えるでしょうか? 

さらにその方が認知症で、
チューブがついていないといけない理由を十分に理解できていない場合はどうでしょう? 

チューブを利用者さんが外されるのは利用者さんの自由なのでしょうか?

点滴をしなくては利用者さんの生命に関わるのが明らかである(切迫性)にも関わらず、
チューブをつねに抜いてしまう患者さんに対しては、
看護師さんが常に見守りをできればチューブを抜く恐れはなくなります。

抜きそうになったら
「抜かないでいただけますか?」
などと声かけをすれば抜くのは防げますし、
抜いたとしても看護師さんであればまた取り付けられるからです。

しかし看護師さんがたった一人の患者さんを何時間も見守っていられるでしょうか? 

病院で何十人と見ていかなくてはいけない看護師さんが、
たった一人のために何時間もその場を離れずに見守りをするなど、
とてもできません。

ではそれ以外に、
抜かないようにする方法があるでしょうか? 

おそらく、
あると答えられる人は少ないと思います。

このように、
他に手段がないことを非代替性といいます。

また、
点滴が終わってしまえばチューブが外れても問題ないので、
点滴が終わるまでの間(一時性)だけ、
チューブを外さないでいただけるよう身体拘束を行うことが検討されます。

緊急やむをえない場合だったとしても、
身体拘束を実施する際は慎重な手続きが必要です。

「緊急やむを得ない場合」に該当するかどうかの判断は、
担当のスタッフ個人(または数名)では行わず、
施設全体としての判断が行われるように、
あらかじめルールや手続きを定めておくことが大切です。

身体拘束を行う場合でも、
「緊急やむを得ない場合」に該当するかどうかを常に観察、再検討し、
要件に該当しなくなった場合には直ちに解除しなくてはいけません。

以上、
身体拘束をやむを得ずに行う場合に切迫性、非代替性、一時性という3つの条件が必要で、
しかも身体拘束している最中の利用者さんの状況を記録に残して、
条件に該当しなくなった時点で直ちに身体拘束を解除しなくてはいけない、
という厳格なルールが存在します。

原則、身体拘束は禁止というのはそういう事です。

身体拘束には身体的弊害、精神的弊害、社会的弊害が起こります。

【身体的弊害】
身体的弊害とは、
利用者さんの身体機能の低下や褥瘡が起こってしまうリスク、
食欲低下や心肺機能、感染症への抵抗力の低下などが起こります。

車椅子に拘束している場合は、
利用者さんが無理な立ち上がりをすることによって、
転倒事故を起こす危険もあります。

【精神的弊害】
精神的弊害とは、
利用者さんに不安や怒り、屈辱や諦めなど、
精神的な苦痛を与えて人間としての尊厳を著しく侵します。

身体拘束により認知症が進行することもあります。

利用者さんのご家族さんが身体拘束を見たことで、
ご家族さんに混乱や後悔、罪悪感など精神的な苦痛を与える恐れもあります。

さらに看護職や介護職も自ら行うケアへの誇りが持てなくなり、
モチベーションの低下を招いてしまいます。

【社会的弊害】
身体拘束は、
介護保険施設などに対する社会的な不信感、偏見を引き起こすでしょう。

身体拘束による利用者さんの心身機能の低下は、
その方のQOL(生活の質)を低下させるだけでなく、
更に医療的処置が必要になるため経済的な負担が増加したりします。

以上のことから、
たとえば徘徊やかきむしり、自傷行為があったとして、
安易に身体拘束するのではなく、
その方の行動の理由を想像することが大切です。

ケアする側や環境に問題はなかったか、
利用者さんが何を求めているのかを探り、
原因を取り除くようにケアを見直してください。

次に、
以前の現場であった身体拘束の例を取り上げます。

それぞれについて、
本当に必要な対応だったのか考えてください。

②弄便を防ぐための身体拘束

ベッド上でオムツをされている男性利用者さんが、
オムツの中で便失禁した後、
ご自身でオムツの中に手を入れて便を触った後、
便のついた手でベッド柵やシーツ、衣類などを触ってしまうために、
その方が便失禁した場合はできるだけ早くに対応しなくては後が大変になるのですが、
職員が気づいた頃にはベッドが後の祭りになっている事が多くて、
夜間帯のシーツ交換、着替え、陰部洗浄、洗濯といった一連の介助が2回、3回とあると、
職員は訪室することすら覚悟が必要になりました。

この方の身体を清潔にするためにもある程度の制限が必要なのではないか、
という話はカンファレンスでしばしば持ち上がりました。

一時間に一回、目配りを行って、
それでも便失禁をした後に弄便(ろうべん。便をいじってしまうこと)されてしまう利用者さんへの対応は、
職員も皆頭を悩ませていて、
後日ご家族さんの了解も取れたことで、
夜間帯はバスタオルを体に巻かせていただいて、
すのこのような状態となることで、
利用者さんは手をオムツに入れられなくなりました。

この対応によって便失禁したとしても弄便することはなくなり、
職員は安心して利用者さんへの対応ができるようになりました。

たまにバスタオルの巻き方が不十分でバスタオルが外れていることもありましたが、
便失禁をしている時にしっかりとバスタオルが巻かれていることが多かったため、
職員の身体的、精神的な疲れが減りました。

さて、これは本当に必要な身体拘束だったのでしょうか?

私が現場で働いていた時、
確かに弄便されてしまう方でしたし、
便が出るときは2回、3回とシーツ交換などをしなくてはいけなくなったりして、
何とかならないかという話し合いは幾度も行われました。

しかし身体拘束が本当に必要だったのか、
今日の研修で改めて問われたので振り返ってみましょう。

身体拘束を行うためには、
切迫性、非代替性、一時性が必要です。

条件に合致していたでしょうか?

【切迫性】
弄便したとしても生命を脅かすという状態ではないかもしれません。

また不衛生なため健康には影響を及ぼすものの、
すぐさま体調が急激に悪化するというほどではないかもしれません。

【非代替性】
一時間に一回、目配りをすることで利用者さんが熟睡されているか、
起きていて掛布団をはいで手を陰部の辺りに置いているか、
または居室にお邪魔した際に匂いがするかである程度察することはできます。

一時間に一回の訪室で間に合わないのであれば、
30分に一回行うことは検討しなかったのでしょうか? 

介護職員の業務に負荷がかかるとはいえ、試すことはできたのではないでしょうか?

【一時性】
便失禁してから便が大体排便されるまで数時間かかると思われます。

それまでの間だけ行うというのであれば、
一時性の条件は適いますが、
今回就寝時刻の夜9時から朝6時まで、
便が出たかに関わらずバスタオルを巻いていました。

これは一時性とはとても言えません。

さらに掘り下げて考えてみましょう。

この方は大体2~3日に一回は排便される方なので、
一日出なかったら翌日、
それでもでなかったら次の日に出る確率が高い方です。

二日目、または三日目に日中帯にトイレに座っていただいて、
排便を促すこともできたのではないでしょうか? 

右足大腿部の骨折の後遺症があり立位、座位に難があるとはいえ、
二人がかりで日中帯にトイレ誘導を行って適宜腹圧を掛けることで、
排便を促すことができたのではないでしょうか?

身体拘束の要件3つを適えていない上に、
職員に出来ることはまだあったと言えます。

バスタオルでの身体拘束は早急に止めて、
日中帯のトイレ誘導を一週間ほど行い、
その結果をまた分析するのがいいですね。

③オムツでなくてはいけない理由

今日行われた研修で、
オムツをすること自体が拘束ではないかと指導教官が言われていました。

利用者さんがオムツを付けたいからつけたわけではないのだから、
オムツをつけることにしたのは介護側の都合ではないのか? 

利用者さんが嫌がるようなことをしていないか? 

オムツでなくてはベッドが汚れるといった理由だとしたら、
それも介護側の都合ではないかと疑問をあげていました。

なぜオムツでないといけないのか、
理由と根拠を提示できるでしょうか? 
この利用者さんを例に、
考えてみましょう。

まずこの方は左足を骨折して以来、
立位がまったくできなくなってしまいました。

座っていても足がO脚になり、
足の裏を床について座ることもできなくなりました。

関節自体の拘縮は進んでいないと理学療法士さんが言われていますが、
利用者さんの痛みの訴えも俄然あり、
ゆっくりとマッサージをしながら足を動かすことでようやく足を揃えることが出来る、
というか揃えてもすぐに足がO脚になってしまいます。

地に足が付けない状態なので、
トイレで立っていただくこともできませんから、
トイレ誘導は出来なくなりました。

ベッド上での排泄介助が援助として組み込まれましたが、
今までリハビリパンツを使っていたのが、
オムツに変わりました。

なぜでしょうか? 

ベッド上で排泄介助をする際、
オムツの方が職員側が楽であるという理由はもちろんあるのですが、
ケアプランで職員の都合が最優先されることはありません。

利用者さんにとってのメリットを考えましょう。

この方の場合は痛みの訴えが左右に体を動かす度にあるため、
リハビリパンツよりオムツの方が体位交換の頻度を減らせる理由から、
オムツが選ばれたと思われます。

さて、
ここまでが現場で働いていた私の見解でしたが、
リハビリパンツに変えられないか改めて検討していきましょう。

便失禁をしていた時におむつの方が比較的にベッドを汚さずに陰部洗浄できますが、
トイレ内にある吸収帯の入っているシートを使えば同様にベッドを汚さずにできます。

シートを入れるためには体位交換が1セット必要ですが、
ズボンやリハビリパンツ等を脱いでいただく際に2セットは体を左右に動いていただくため、
そのすきにシートを差し込めばいいのですから、
オムツのほうが利用者さんの痛みに配慮した対応という理由はなくなります。

リハビリパンツとオムツ対応とで体位交換の回数が若干変わってきますが、
利用者さんには
「どちらがいいですか?」
とお聞きすればいいでしょう。

痛みの緩和、痛みを感じない介助を何よりも希望されているのならオムツになるでしょうし、
最近は少し痛みの訴えが減ってきたので、
今くらいであればリハビリパンツの方がいいと仰るかもしれません。

利用者さんがどちらを選択するかは分かりません。
利用者さんは
「痛みのない方がいいですか?」
という質問を理解して返答できるかは分かりません。

というのは、
認知能力が健常者と同等ではないためです。

利用者さんに聞いてみてどう答えられるか、
またはご家族様がどう答えられるかで対応は決まりますが、
施設として出来る限りの精査をする必要があることは言うまでもありません。

今まで利用者さんの痛みの訴えが強かったため、
また立位が取れないためオムツ対応も致し方ないという考えでしたが、
それでも変えられないかと考えを変えることで分析が足りないのではと思うことができました。

研修で講師より、
利用者さんの事を本当に考えていますか? 
という問いが幾度もされました。

これは今後の課題となりますので、
これからも考えていきたいと思います。